夢の行方:第2話

「うーん……」
 どれくらい気を失っていたのだろう。
 梨香が目を開けると夕焼けが広がっていた。
 どうやらこの浜まで流されてきたらしい。
 起き上がると節々が痛んだ。
 真奈美もどこかに打ち上げられていればいいが。
 ここはどこなのだ。とにかく歩いてみよう。
 梨香はゆらゆらと立ち上がって周りを見た。
「ここは島?」
 体は痛むが、じっとしてはいられない。
 とりあえず誰か人を探さないと。警察が自分のことを捜索しているかもしれない。

 歩いているうちに、この島がさほど大きくないことがわかった。
 周りにはずっと海が広がるばかりだ。
(もしかしたら、私ずいぶん遠くまで流されてしまったのかしら)
 さっきから歩いているが、誰にも会わない。
 島の中のほうは木が生い茂っている。怖い動物でもいそうだ。
 梨香はすっかり心細くなってきた。
「真奈美、どこ行っちゃったの? 敦史、助けに来て! お父さん、お母さん、怖いよ。おなかすいたよ。のどかわいたよ」
 梨香は子供のように声を上げて泣いた。
「お母さん、梨香どうしたらいいのぉ」
 泣き続けているうちに、夕陽が半分沈んだ。
(どうしよう……このまま夜になっちゃう)
 森の入り口まで歩いたが、中まで入る勇気はない。
 疲労が限界にきている。梨香はその場にふらふらと倒れこんだ。
(何でこんなことになっちゃったの。私ここで死んじゃうのかな……)

 ◇◆◇

「○×△◇□▽!」
 誰かに呼ばれる声で梨香が目を覚ますと、目の前に見知らぬ少年の顔がある。
「あなたは?」
「×▽□◇○」
 少年は一生懸命話しかけてくるが、何を言っているかわからない。
 どこの言葉なのだろう。
 ただ、表情から見て悪い者ではなさそうだ。
『気がついてよかった』と喜んでいるようである。
「ありがとう」
と梨香が言うと、少年は意味がわかったのか、はにかんだような笑顔を浮かべた。
 言葉は全く通じないが、身振り手振りで話しているうちに、お互いの名前が「リカ」と「マウ」であることは理解できた。
 よく見るとマウはずいぶん若い。
 梨香より10歳以上年下だろうか。

 マウは梨香の手をとって洞穴に連れてきた。
 今夜はここに一緒に泊まろうということらしい。梨香の体を気遣ってのことだろう。
「マウ、私のためにお家に帰れなくてごめんね」
 梨香がそう話しかけると、意味が通じたのか、マウは『気にしないで』という顔をする。
 途中でマウは外へ行き、果物を持ってきてくれた。
 梨香はその優しさにすっかり安心して眠りについた。

 翌朝、目覚めるとマウはどこかに行こうというしぐさをした。
 どうやら自分の家に一緒に行こうと言っているらしい。あくまでも梨香の勘だが。
『もしかしたら電話を借りられるかもしれない』と思い、ついていくことにする。
 ずっと歩た森の奥に草葺の集落があった。
 ところが、何ということだろう。
 そこは写真でしか見たことのないような草と木でできた家が並んでいた。電気は通っているんだろうか。
(ええっ? ここって一体どこ? 今って平成だよね? どうしよう。私、日本に帰れるのかな……)

 マウの家に行き、家族に紹介される。
 おばあちゃん、お母さんとお父さん、弟や妹たち。
 皆にこにこと梨香を迎えてくれた。
 当分ここで世話になるしかないんだろうか。
 でも、この島では自分には何もできそうもない。
 女の自分にはろくに食べ物も調達できないだろうし、周りを見ても海しかない。
 仕方なく何日かマウの村で過ごすうち、梨香のマウを見る目が変わっていった。
 ずっと年下なのに、働き者でたくましく、優しいマウ。
 梨香はどんどん惹かれていく。
 2人きりになったとき、マウは梨香をそっと抱き寄せ口を吸った。
(私、求愛されてるのかな)
 梨香はそれに応え、同時にこのドラマチックな運命に賭けてみようと思った。

 さらに何日か過ぎたある日、梨香は村の長老らしき人物のところへ連れていかれ紹介される。
 そして、マウの両親は美しい布でできたパレオを梨香にプレゼントしてくれた。
 周りを見ているうちに、梨香には彼らのすることの意味が次第に理解できてきた。
 この島の男女は結婚年齢が低い。恐らく10代であろう。マウもそろそろそんな年齢なのだ。
 村の人たちは梨香とマウが結ばれることを願っているようだ。
 マウは梨香を愛してくれている。
 そして自らもマウへの愛を自覚しはじめている梨香に迷いはなかった。
(こんなに心のきれいな人に会ったのは初めて。マウのお嫁さんになりたい……)

 その2日後、梨香とマウの結婚の儀式が広場で行われた。
 梨香はパレオだけを身につけ、髪には大きな花を差している。
 島の女性と同じく上半身には何もつけず、小ぶりだが形のいい乳房をあらわにした。
 昼から夕方まで宴は続いた。
 日がとっぷりと暮れた頃、広場の真ん中に絨毯のようなものが敷かれ、周り数ヶ所に火が焚かれる。
 マウは梨香の手をとり、絨毯の上に一緒に立った。
 長老が皆に何か大きな声で言っている。
 打楽器の演奏が始まった。
 マウは梨香に何かささやく。そして梨香を絨毯の上に寝かせ、腰に巻いているパレオを解き始めた。
「何?」
 見る間に梨香は全裸にされた。マウは梨香にキスをしながら胸をまさぐってくる。
(まさか……これってもしかして、みんな見ている前でセックスするってこと?)


第3話へ続く

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