「ムラノ、いくよ!」
「あ……ああ」
ムラノはマルヤマに向かって突進した。
何度も何度も分厚い腹にパンチを食らわせる。
「ああ? 虫ほどにも感じないぜ」
どうも効いていないようだ。
マルヤマはヘラヘラ笑っている。
「くそっ」
(この大男、攻撃されても感じないんだわ)
でもやるしかない。
レナが棍棒を持って後ろからマルヤマを襲う。
「何だ、てめえ」
マルヤマがちょんとつつくと、レナは吹き飛ばされ、尻餅をついた。
すぐに起き上がり、再びマルヤマに向かっていった。
だが、レナとムラノがどう頑張っても、マルヤマは一向にこたえない。
(このままじゃ駄目だ。私とムラノのスタミナが持たない……)
レナは2人から離れると、崖っぷちのほうに行き、叫んだ。
「マルヤマ!」
「なんだ?」
「ここまで来い! サシでやろうじゃないか」
「あ?」
「私が怖いのか?」
「ふざけんな。このアマ!」
マルヤマはムラノから離れ、レナのほうにのしのしと歩いてきた。
「うら、うら」
マルヤマはレナをつかもうとする。
レナは機敏な動きでそれをかわし、足を狙って棍棒を打ち込む。
「うおっ!」
「はん! さすがに足には効いてるみたいだね」
何度も何度も足を攻撃され、マルヤマはその場に倒れこんだ。
「今だ! ムラノ、来て!」
巨大なボールのように丸まっているマルヤマをレナとムラノは海に向かって押した。
「な……何だ」
巨体は地面にめり込んでいるようだ。
押しても押しても動かない。
だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
レナとムラノは全身汗だくになって、渾身の力を込めて押し続けた。
ズ……ズズ……
「うわっ」
少しずつだが動いている。あと数センチ動かせれば……。
「このやろう」
マルヤマがレナをつかもうと手を伸ばしたそのときだ。
「あっ!」
頑張っても頑張ってもなかなか動かなかったマルヤマの巨体がごろんと転がった。
「やった!」
「うわああああああああああ!」
途中の岩に何度かぶつかりながら、丸い塊は海にドボンと落ちた。
「はぁ、はぁ」
ムラノは息を整えながらレナのほうを見た。
「……!」
レナは構えの姿勢をとっている。
「レナ!」
「あとはあんた1人だけになった」
「何考えているんだよ!」
「うるさい!」
レナはムラノに向かっていった。
手足をびゅんびゅん振り回してキックやパンチを食らわしてくる。
やはり只者ではない。
肉体派のムラノもうなるような正確な動きで攻めてくる。
「レナ! やっと2人だけになれたのに、どうしたんだ!」
「人間はね、生まれるときも死ぬときも1人なんだよ!」
「レナ。これからは2人じゃないか」
「……」
ムラノは両手を広げた。
「レナ、おいで」
レナは攻撃をやめ、ムラノのほうへ歩み寄る。
「ムラノ……」
ムラノがその身体を抱き寄せようとした瞬間、レナが思い切り体当たりしてきた。
「ああっ」
ムラノは足を滑らせ、海に背を向けて落ちそうになったが、かろうじて片手で崖のへりをつかんだ。
「どうして……どうしてなんだ……」
レナはその手を踏みつける。
「私はね……誰も信じられないんだよ……」
「レナ……」
ムラノは力尽きて海に落ちていった。
「うああああああ!」
「ふん」
海に沈むのを確かめる時間も惜しいといったように、レナはきびすを返した。
身体はボロボロに疲れているが、休む間なんてない。
筏を探さなくては。
マルヤマの小屋の周りを歩き回った。
「どこにあるんだろう」
探すこと小1時間。
「あったぁ!」
筏は茂みの中に隠すように置かれていた。
◇◆◇
レナは海に向かって筏を出した。
海面がキラキラと波打っている。
振り返ることなんてしない。
この島には思い出なんてないのだから。
◇End◇
