大いなる誤算:第1話

「ううむ」

 慎司はパソコンの前でうなった。
「似てる……」
 毎日チェックする写真投稿サイト。いわゆるアダルトサイトだ。
 画面には裸の女の写真が映っている。
 Rという人物が投稿した写真だ。
『私の可愛い彼女です』というコメントが添えてある。
 Rが愛人とベッドで楽しんでいるときに撮った写真だろうか。
 へそから下しか写っていないので、顔はわからないが、体つきが妻の宏美に似ている。
 右太ももの内側にある3つ並んだホクロも同じだ。
「3つ並んでいるなんて珍しいし……でもまさか、な」

 コンコン……
 書斎のドアをノックする音がする。
「宏美か」
 慌てて画面を変えると同時に、宏美が入ってきた。
「あなた、コーヒー淹れてきたわ」
「ああ、ありがとう」
 大学の助教授をしている慎司は、教育、研究と忙しい。
 家でも書斎で本を読んだり、パソコンに向かっていることが多い。
 宏美はそんな慎司を陰から支えてくれる貞淑な妻だ。
 真面目でおとなしく、地味なぐらいだが、安心して家を任せられる。
 妻に限って他の男と肌を合わせるなんて、そんなことはあり得ないと思う。
(広い世の中、ホクロが似てるやつがいてもおかしくないさ)

 1週間後、例のサイトにまたRが投稿していた。
『私の言うことを何でも聞いてくれる彼女です』
 自分で足を抱え、大きく股を開き、局部をアップにした写真だ。
 なんともいやらしいポーズである。
 大事なところは見えないよう処理をかけてあるが、恥毛の生え方が宏美に似ているような気がする。
 いや、見れば見るほど宏美にそっくりだ。
 扇形にうっすらと広がる茂み。
 何日も考えているうち、疑いは確信へと変わっていった。

「くそっ」
 宏美を問い詰めたい。
 が、書斎でアダルトサイトを見ているなんて知られたくはない。
 それに、もし宏美に確実なアリバイでもあったら大変だ。
 しかし、このままでは気がおさまらない。
 悶々とするばかりだ。
 慎司は考えた。
(そうだ、尾行してみよう!)
 かといって、ずっと張っているわけにはいかない。
 仕事もある。
 どうしたものか。

「……!」
 そのサイトをよく見ると、Rが投稿しているのは2回とも火曜日の深夜。
 もしRと妻が会っているとすれば、火曜日ではないだろうか。
 妻は毎週火曜日の昼間、翻訳教室に通っている。
 もしかしてそこで知り合った男とか?
 慎司は翌週の火曜日に宏美をつけることにした。

 ◇◆◇

 教室の時間は午後1時半から3時までだ。
 慎司は教室のあるビルの入り口を張っていた。
 今は1時40分、そろそろ出てくる頃だろう。
「おっ!」
 宏美は女性2人と出てきた。
(女か。いや、これから男と待ち合わせしているのかも。油断できねえ)
 3人はどこかでお茶を飲むでもなく、まっすぐ地下鉄の駅に向かう。
 改札を入り、下りのエスカレーターに乗る。
 慎司はは宏美らを見失わないように、見つからないように、距離に注意しつつ後をつけた。
「じゃ、私、寄るところがあるから」
「また来週ね」
 宏美は2人と別れ、ホームに入ってきた電車に乗った。
(あれ? これは家の方向じゃないぞ。どこへ行くんだ)
 慎司はすぐに詰め寄りたい気持ちを抑え、隣の車両から宏美の横顔を見つめるのだった。


第2話に続く

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