”楽園(パラダイス=Paradise)”とは、もともとは「周囲をおおわれた」という意味のペルシャ語が語源となっていて、王侯貴族が狩猟を楽しむため”猟園”を意味したものだとされる。
転じて、周囲から隔離され、生命維持のための食料や水などが潤沢にあり、しかも享楽のための要素まで備わった場所という意味となった。
西洋人にとって”楽園”という連想するのが、アダムとイヴが神に与えられた場所である「エデンの園」であるが、彼らは神の命令に背いたために、ここを追放されてしまった。
そして、ユダヤ教とキリスト教の伝承ではその後のエデンの園は天使たちによって厳しく警備され、人間の侵入は許されていない。
この”楽園”という発想はユダヤ教やキリスト教のみならず、世界中に同種の”楽園”願望が存在する。
日本人の”西方楽土”や中国人の”桃源郷”もまたそのひとつである。
もちろん、宗教的な意味合いのみでなく、現実に”楽園”を地上で探し出そうとする情熱も人間の歴史に刻まれている。
”楽園”という連想は原始以来、人々が希求してやまず、しかも、いまだにイメージを膨らませつづける悠々のユートピアなのである。
禁断の果実を食べてしまったアダムとイヴ・・・
大天使ミカエル(Michael)はこれを決して許さなかった。
楽園を追放されたアダムとイヴは悲嘆に暮れながら、暗い夜道をとぼとぼと歩いていた。楽園とは違って西の山脈からは狼の遠吠えすら聞こえて来る。
長時間道なき道を歩き脚も疲れ果て、水すら飲めない状態が続いていたが、やっとの思いでオアシスを見つけた。
アダムはイヴに言った。
「僕は狼が襲って来た時のために、この木を折ってこん棒を作っているから、君は水を汲んで来ておくれ。今夜はこの当たりで休もう。」
「うん、わかった。じゃあ水を汲んでくるからね。待っててね。」
イヴはにっこりとアダムに愛らしく微笑んで湖畔に降りて行った。
湖畔の周辺には木々が鬱蒼と繁っていた。
イヴはすでに日が暮れていたから、足元が見えにくく手探りで歩いた。
その時であった。
「キャー!」
衣を裂くような大声が静寂とした闇に轟いた。
アダムは驚き湖畔の方に走って行った。
「イヴ~!どうしたんだ!?」
イヴは大きな穴に脚を滑らせたのだった。
まっさかさまにどのくらい落ちたのだろうか・・・
落下していくうちにイヴは気を失っていた。
アダムは湖畔を探したがイヴの行方を見つけることができなかった。
「イヴ~!どこに行ったの?何があったの~!?」
イヴは気絶はしたものの、不思議なことにかすり傷ひとつ負わなかった。
落ちたところが海綿状の土壌であったため難を逃れたのであった。
何日眠り続けていたのだろうか?
イヴはふと耳元で囁く低い声で眼を覚ましたのだった。
周囲にいる異形の怪物に驚き大声をあげた。
「キャー!」
イヴの廻りには得体の知れない怪物たちが群れをなしていた。
およそ天界にも地上にも生息しない生物が・・・。
身体が青白い半透明体で、粘膜状の皮膚をおおっていた。
驚いたことに股間のいちぶつが異常に長く蛇のようにうねっていた。
しかも横たわっているイヴの下半身に近づいていた。
「キャー!何よ、あなたたち。やめて~!」
イヴは伸びてくる触手状の怪物たちのいちぶつを手で振り払った。
しかし怪物は一匹ではない。
5~6匹が群れをなしイヴを取り囲み異様な声を発していた。
まるで滑車がきしむような。
振り払っても振り払っても触手は近づいて来た。
身を蔽うものすら着用していなかったイヴを狙うには、怪物たちにとって容易なことであったろう。
とうとう1本の触手がイヴの秘部に伸びた。
怪物たちにとってはあまりにも狭かったためこじ開けようとしている。
イヴは痛みに耐え兼ねて大声を張り上げた。
「助けて~!いや~!やめて~!」
その時であった。
どこからともなく旋風が巻き起こった。
「ウギャ~!」
怪物数匹が断末魔の叫びをあげた。
彼らの後方に現われたのはひとりの大男であった。
身の丈は2mほどあるだろうか。
顔は緑色で鋭い眼が輝いていた。
頭には何やら戦闘用の冠を冠っている。
背中には大きな羽根があり、驚いたことに手が6本あった。
そのうちの2本には大きな剣を持ち、怪物たちを切り裂いた。
怪物たちがバッタバッタと倒れて行く。
最後の怪物が絶命したとき、大男は初めて口を開いた。
「危ないところであったな。彼らは暗闇の天使異堕(イダ)と呼ばれている。天界や地上で女性関係の悪事、つまりレイプなどを行なった者達の化身だ。神に飛ばされたのだ。この魔界にな。」
「魔界!?ええ?私は魔界に落ちて来たの?どうして?」
「それは私も判らない。ただ言えることは天界や地上には次元の歪みがあり、そこが一種のブラックホールとなっている。そこから落ちたのではないかと思う。不幸としか言いようが無いな。だが、せっかくこの魔界に来たのだから焦らずゆっくりとしていけば良い。」
「そんな・・・私は帰らなければ・・・私を待っている人がいるんです。ところであなたは?」
「はっはっは、待っている人か、なるほど。ああ、申し遅れた。私はロキという。元々天使だった。しかしあることで全能の神ゼウス様に怒りを買いこの魔界に落とされ堕天使となった。だが、ある切っ掛けで特殊な能力が備わり現在は阿修羅(アシュラ)となった。やがては闇の魔王サタンや暗黒の帝王ルシファを倒し、この魔界の王となるつもりだ。はっはっは~!もう天界などに未練はないわ。はっはっは~!」
「・・・」
「おお、こんな話を聞いても何のことか判らないだろうな。ところで私はそなたが気に入った。その輝くばかりの美貌と美しき肉体が。私の妻になれ。そなたは私の子を産むのだ。」
「いやです!私には好きな人がいます。」
「そうか。それは残念だな。だが、私は諦めないぞ。取りあえず我が家に来い。可愛がってやるぞ。」
「嫌です。私はアダムの元に帰りたい・・・」
「アダム?それは彼の名か?はっはっは~!まあよい。今夜私と一夜を共にすればその男のことはきっと忘れることになる。はっはっは~!」
「いや、行きません。」
「そう邪険になるな。嫌がっても連れて行く。」
そう言うなり、ロキはイヴを軽々と抱えていずこかに姿を消した。
イヴはもがいたものの焼け石に水であった。
第2話に続く
